仲裁を利用するメリット
仲裁を理解する上での重要な基本用語、仲裁手続に適用されるルールなど、仲裁の利用にあたり知っておきたい基礎知識につきましては、動画もご覧ください。
国際取引における裁判の問題点 – 日本企業から見た場合 –
相手国の裁判所を選択した場合
- 相手国の裁判のプロセスがわからない
- 裁判の言語が相手国の言語だ
- 相手国の裁判所は公平に判断してくれるのかわからない
- 相手国の言語を話せる弁護士と、その弁護士と連絡をとる日本の弁護士が必要だ
- 裁判に出頭することになった場合、渡航費や時間がかかりすぎる
- 裁判を起こすことを示唆することにより、相手方を交渉へのテーブルに乗せる方法が効きづらい
日本の裁判所を選択した場合
- 相手国に訴状を送達するのに時間がかかる(早くても数か月。長ければ一年以上)
- 訴状は相手国の言語に翻訳しなければならない
- 証拠をすべて日本語に翻訳する必要がある
- 判決に基づく任意の支払いがない場合、相手国で日本の判決を承認・執行できる保証がない(判決の相互承認に関する多国間・2国間条約に日本が加盟していないため)
仲裁のメリット – 裁判と比較して –
仲裁は、当事者が、「裁判官」にあたる仲裁人を選んで、紛争の解決を委ねる紛争解決手続です。
特に、国際取引では、仲裁が、スタンダードな紛争解決方法であると考えられています。
その理由は、仲裁には以下のメリットがあるからです。
仲裁判断は国を超える
仲裁判断は、外国仲裁判断の承認及び執行に関する条約(通称、ニューヨーク条約)により、170を超える締約国の裁判所を通じて、その国の裁判所の確定判決と同一の効力を有するものとして取り扱われ、その内容を強制執行することができます。これに対して裁判では、多くの場合、一方の国の裁判所の判決が相手国の裁判所で承認・執行される保証はありません。
紛争を迅速に解決できる
裁判と異なり、仲裁は控訴や上告という制度がない一審制であることや、仲裁機関が審理の進行を管理することが多いので、迅速な紛争解決が期待できます。またその結果、紛争解決に必要な費用も抑えられることが多いので、比較的小規模な紛争事案でも「費用倒れ」の懸念を防ぐことができます。
当事者の事情に即して柔軟に手続を進められる
手続の進め方の詳細は、事案ごとに、仲裁人と当事者が協議して決めます。これにより、事案の性格や当事者のニーズに即して、透明性が高く、無駄を省いたオーダーメイド型の手続進行が可能となります。例えば、仲裁手続で使用する言語や翻訳の要否は当事者で決めることができますし、ビデオ会議システム等のオンライン技術を駆使した手続の採用は、費用や時間面での当事者の負担を大幅に節約することができるほか、コロナ禍における紛争解決の有力な手段として再評価されています。
紛争の事実やその内容の詳細が意図せず外部に漏れることを防ぐことができる
公開が原則の裁判とは異なり、仲裁手続や仲裁判断は非公開で行われるので、紛争の事実やその内容あるいは仲裁判断の詳細が当事者の意思に反して外部に漏れ、不測の不利益を被る心配がありません。
「裁判官」にあたる仲裁人を当事者が選べる
裁判では、事案を担当する裁判官の資質や人事異動に伴う担当裁判官の突然の交代について当事者には何ら発言権はありませんが、仲裁であれば、事案の特性に応じた専門性や個々人のこれまでの実績を踏まえて、当事者自らが仲裁人を選ぶことができます。
仲裁が和解を後押しする
契約書に仲裁条項を入れておくことが、実際に紛争になった場合にも、裁判を利用する場合に比べて、仲裁の申立て前後により対等な立場での和解交渉を後押しすることが考えられます。例えば、2018年から2022年に終結したJCAAの事件を見ましても、約4割が、仲裁申立後に、和解によって紛争が解決しています。
仲裁を利用する上で押さえておきたい大切なポイント
仲裁は、仲裁を利用するという当事者双方の合意(仲裁合意)のもとで進める紛争解決手続です。
紛争発生後であっても、当事者双方が仲裁合意をすれば仲裁手続を進めることができますが、紛争が発生してからでは、そのような合意をすることは非常に難しいのが現状です。JCAA仲裁事件によると、その割合は1割にも達しません。通常は、予め契約の段階で、「紛争を、裁判ではなく仲裁で最終的に解決すること」を当事者間で合意しておくことが重要です。
また、その際、当協会(JCAA)に仲裁を申し立てるには、仲裁機関として当協会(JCAA)を指定することを、当事者間で合意しておくことが重要です。
詳細は、仲裁条項の書き方をご覧ください。